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きとにゃんのおもちゃばこ。

やとわれたんていです。

佐藤尚之(2011)『明日のコミュニケーション』

佐藤尚之さんによる広告・コミュニケーション論、『明日の〇〇』シリーズの第2弾。

前作『明日の広告』から3年、SNS全盛期の2011に執筆されており、本書でもSNSユーザーの生態に着目したコミュニケーション・デザインを提案している。

 

 

あらすじ

圧倒的な情報伝播力をもつソーシャルメディアが登場して、多くの生活者が発信者になった。「RT」や「いいね!」を通じた控えめな情報発信は、ネット上に新たな共感を拡散する。生活者の共感をいかに獲得するか?「口説く」から「愛される」へ。これが企業と生活者の新しい関係づくりの第一歩となる。

 

ソーシャルメディアで何が変わったのか?

ハイパークチコミによる情報伝播

ソーシャルメディアの特徴として、情報伝播のスピードと拡散力がずば抜けていることが指摘されている。

この理由としては、以下の2点が挙げられる。

  1. いままで受信するだけだった人が発信者になったから
    RTやいいね!は情報への共感を共有する手段である。これによって、SNSのユーザーは自らも発信者として「自分の共感した情報」を手軽に発信できるようになった。
  2. それぞれのソーシャルグラフに、自動的・無自覚的に情報が拡散するから
    ソーシャルグラフとは、SNS上でつながっている人間関係図である。SNSでのつながりは特定の属性に閉じていることは稀で、大抵は「学校の同級生」「仕事仲間」「趣味の友人」のように複数の属性にまたがっている。SNSでは、ソーシャルグラフ上の全体に情報が拡散されるようになった。

これらによって、従来のクチコミによる情報伝播の規模を大きく超えた、ハイパークチコミとも呼ぶべき情報伝播が、自動的かつ無自覚的に行われるようになった。

「関与する生活者」の登場

もう一つ。本書の副題にもある通り、「関与する生活者」なる人々が活発に活動できるようになったことが、SNS登場後の最大の変化として挙げられている。

「関与する生活者」とは、問題意識をもっている社会的な事柄や、当事者意識をもっている問題などに積極的に関与・参加し、意見や感想を表明し、実際に行動する人たちのことである。(p.64)

そして、ソーシャルメディアの登場により、元々の「アクティブ関与層」だけでなく、これまで関与したくとも方法のなかった「潜在関与層」や、深くは関与しないけどちょっとだけ関与したい「プチ関与層」も関与できるようになった。

ソーシャルメディアにおけるコミュニケーション

では、そんなSNSの登場によって、人々のコミュニケーションはどのように変化したのだろうか。

SNS時代のコミュニケーションの特徴として、以下の10点が指摘されている。

  1. 「共感」を纏わない情報は広がらない(p.117)
    共感できる情報でなければ、SNS上の知人・友人(ソーシャルグラフ)上に拡散しようとは思わない。
  2. 発信元への共感がとても大切(p.120)
    「何を発信するか」よりも、「誰が発信するか」が重要に。
  3. 有益である可能性が高い情報に受動的に出会う(p.123)
    SNSでは自分から検索せずとも、友人・知人がシェアした情報が飛び込んでくる。
  4. 情報に出会う順番が変わる(p.125)
    「マスメディアで知って、ネットで検索」から、「ネットで知ってマスメディアで確認」へ。
  5. ネットがネガからポジな場所へと変わる(p.130)
    SNSではリアルな人間関係が持ち込まれるので、「真っ当な言動」が増える。
  6. 友人・知人からのおせっかいなオススメが簡単に得られ、大きな影響力を持つ(p.132)
  7. 情報は「肯定されるもの」になり、企業もどんどん発言しやすくなっていく
  8. 情報や商品に「友人の共感」という重み付けがされる
    数ある情報・商品の選択基準として、友人の共感が強い影響力を持ちうる。
  9. 検索より友人・知人の言葉
  10. 等身大の生活者発信情報が、かつて無いほど人に影響を与えるように

 

ソーシャルメディア時代の生活者と企業の動き方

SIPSという生活者消費行動モデル

従来のAIDMA、AISASといった消費行動モデルに代わって、ソーシャルメディア時代の消費行動モデルとして新たにSIPSが提案されている。

SIPSとは、以下の4段階から構成されている。

  • Sympathize:共感する
  • Identifi:確認する
  • Participate:参加する
  • Share & Spread:共有&拡散する

なお、SIPSソーシャルメディア上の消費行動にすぎず、ADMAやAISASに取って代わるものではないことに注意する必要がある。

ソーシャルメディアを利用しない人々にとって、または商品や状況に応じて、AIDMAやAISASとのような消費行動は今後も取られ続ける。だからこそ、AIDMAやAISASとSIPSは共存しうるものでもある。

SIPSと「関与する生活者」

繰り返すが、SIPSソーシャルメディア上での消費行動をモデル化したものだ。そしてその前提には、ソーシャルメディア上では(1)ハイパークチコミによって情報が爆発的に広がること、(2)情報を拡散・発信する「関与する消費者」が登場してきたことを述べた。

SNSの利用者は(2011年当時は)限られた層にすぎず、「SNSで宣伝すれば万事オッケー」という訳でもない。

しかし、SNSの利用者は「関与する生活者」として、その商品やブランドを長く使用し続けてくれるロイヤルカスタマー、そしてその魅力を自分の友人・知人に伝えるエヴァンジェリストとなってもらえる可能性が高い。広告よりも友人・知人の声が重視されるのがソーシャルメディア時代である。その影響力はネットの外にさえ及ぶこともある。だからこそ、企業にとって「関与する生活者」は、単なるユーザーではなく、広告塔にもなりうる「ぜひとも仲間に引き入れたい存在」だ。

企業が「関与する生活者」に愛されるために

以上を踏まえると、ソーシャルメディア時代の企業には「関与する生活者」に愛されるための戦略が必要になる。

そのためには「発信元=企業に共感してもらうこと」が必要であり、これを成し遂げるには企業もひとりの「人」として生活者のなかに入っていくことが重要であるという。

人と人のつながりのなかに入る際のポイントとして、本書では以下の点が紹介されている。(p229-230)

  • 生活者の役に立つ企画を中心にする
  • 地道に長く貢献する
  • コンテクストを創出し、切っても切れない仲になる
  • いま流行っていることを企画に取り入れる
  • 友人に話したくなる”話のネタ”を提供する

ここで重要になるのは、『明日の広告』でも述べられていたようにコミュニケーション全体をデザインすることである。従来型の広告・広報のようなコミュニケーションでは、あくまで企業としての発信であり、人と人のつながりの中に入っていくことは難しい。ここに、著者が前著から一貫して主張しているコミュニケーション・デザインの視点が活きる。

 

きとにゃん’s めも

  • ”消費者”から”生活者”へ。
    『明日の広告』(2008年)では”消費者”という言葉を使っているが、本書では”生活者”という言葉を使っている。広告・コミュニケーション業界が、”消費者”を単に消費するだけの存在では無いと考えるようになったことの一旦の表れ。
    マーケティング業界でも”生活者”という言葉をちらほら見かける。けれども、まだまだ主流は”消費者”かもしれない。
  • ソーシャルメディアの登場によって、「結局、どういう戦略が必要か?」という内容は『明日の広告』とほとんど変わっていない。
    企業と消費者の関係は、広告・広報や営業といった限られた領域だけでなく、全員野球のコミュニケーションへと変化している。(p.266)

 

章立て

  • はじめに
    ソーシャルメディアを過大評価はしないけど、やっぱり重要だとボクが思うわけ
  • 第1章:「関与する生活者」がつながった
    ソーシャルメディアは関与する生活者が動くプラットフォーム
  • 第2章:ハイパークチミの誕生
    ソーシャルグラフが情報伝達を大きく変える
  • 第3章:ソーシャルメディアの勘所
    コミュニケーション・デザイン視点でのキーワード
  • 第4章:ソーシャルメディア上で生活者はどう動くか
    − 新・生活者消費行動モデル概念「SIPS
  • 第5章 関与する生活者に愛される方法
    ソーシャルメディア時代のコミュニケーション・デザイン
  • おしまいに
    − ボクたちはその萌芽の最初期に生きている

 

参考記事